聖林寺十一面観音菩薩立像の構造技法の研究

および現状模刻

2019年度修士課程2年 朱 若麟

はじめに

 本研究では、国宝である奈良県聖林寺木心乾漆造十一面観音立像の模刻研究を行い、その制作過程で使用する材料や古典技法について研究を行いした。また、本像の構造に即して模刻制作を行うことで、天平時代の乾漆造への理解を深めます。

原本像のデータ

文化財指定種別:国宝(昭和26年指定) 

法量(㎝):像高 209.5  像高(頂上仏除く)196.9 

面長 19.6  面幅   16.9 面奥  23.8  臂張 63.0

裾張 58.5  天衣張67.4  頂上仏高 11.0

聖林寺

 本像は心木をヒノキ材で制作し、その表面に漆とニレの樹皮粉末を混ぜた木屎漆で造形を行う木心乾漆造という天平時代に隆盛した技法で造られています。その像内の心木構造においては、本像膝下から別材で造られた  長い足枘が  台座返花まで挿されているという点で、非常に興味深い特徴があります。

 次に心木の構造についてです。頭頂から足まで1材で彫り出します。裙先の左右・背面に別材を矧ぎます。頂上仏、化仏、上腕、前膊、手先、足先を別材でほり出します。膝から台座反花部下にかけて長い枘を通します。指先、耳朶、遊離した天衣には金属芯を用います。背中からお腹にかけて内刳りを施し、背面、腹部に蓋を嵌めます。

 

聖林寺十一面観音菩薩像

構造図

 制作を始める前に、本像が安置されている奈良県桜井市聖林寺での熟覧調査、透過X線撮影及び3次元計測を行いました。心木の構造を把握するため、透過X線写真と3Dデー タ図面を参考して、3分の1縮尺の心木模型を制作しました。

木心模型

実際の制作工程

 3Dデータや、X線資料を基に、木目方向や材の大きさを検討し、木取りを行いました。今回使用した木材は長野県木曽福島で伐採した直径70cm、長さ550cmの木曽ヒノキです。
X線資料と3Dデータ図面を合わせて心木の図面を作成しました。その図面を材の4面に転写し、輪郭線に従って鋸を入れました。今回使用した材は2018年11月に切った丸太であったため、木の中に水分が多く残っていました。そのため、鋸を入れたあと干割れを防ぐため すぐに内刳りを行いました。
その後3Dデータを参考に心木の彫刻を行いました、

木取り

 心木の完成後、全体に生漆を薄く擦り込み、木地の表面を固めました。心木強度の向上、及び木屎漆と心木の接着のため、糊漆を用いて大きさ約10×10cmの麻布を全面に貼り込みました、今回は正倉院文書(もんじょ)の中の乾漆の記録を参考にして、小麦粉+水+生漆の糊漆を用いました。

 

心木制作

心木完成

布貼り

 木屎漆(アキニレ粉+水+生漆)を心木に盛って成形しました。木屎漆をよく硬化させるため、一度に5mm以下の厚みで盛りつけを行いました。耳朶や指など金属芯を用いる箇所には、木屎漆をくいつかせるため、金属芯に糊漆を塗った麻の紐を巻いたのち木屎を盛って成形を行いました。

木屎漆での成形

 木屎漆での成形後、全体に生漆を薄く擦り込み、表面をもう一度固めました、その後、掃墨漆(生漆+松煙)を全体に塗って、像全体が黒くして均一的な色になって、形が良く見える、もう一度形を修正する。

そして錆漆(砥粉+水+生漆)を表面に塗り重ね、砥石、ヤスリで表面を研いて仕上げました。その後木地呂漆(精製した透明感ある漆)、最後に金箔を全身に貼って、古色仕上げを行いました。

木屎漆での成形

掃墨漆

錆漆

木地呂漆

金箔

​完成した模刻像

木心位置の推定

 本制作の中で、心木の木取りを再検証しました。先行研究では、像正面は柾目、あるいは正面と側面とも柾目の木取りであると推測されています。今回当研究室で行った透過X線撮影により、像側面は柾目、正面は板目の木取りであると推定されました。側面のX線資料によって、柾目の木目が後頭部から正面に向かって徐々に粗くなり、面部に近い箇所で木目が見えづらくなることから、面部付近に材木の芯が通っているものと推定されました。また、今回この推測に沿って制作した模刻像をX線で撮影すると、原本像とよく似た結果となりました。そのことから、本像に用いられている材が半割り材である可能性が高いと推定しました。

 最後になりましたが、本調査に際して、模刻研究をご快諾くださいました聖林寺御住職倉本明佳様をはじめ、ご指導ご協力を頂きました皆様に心より御礼申し上げます。

 なお、本研究は公益財団法人仏教伝道協会の助成金を受け調査を行いました。重ねてお礼申し上げます。

参考文献

西村公朝「聖林寺十一面観音立像の構造・技法・表現についての考察」『東京藝術大学美術学部紀要5』東京藝術大学、1969年。
西村公朝「X線による聖林寺十一面観音立像の構造について」『東京藝術大学美術学部紀要10』東京藝術大学美術学部、1975年。
本間紀男『X線による木心乾漆像の研究』美術出版社、1987年2月。

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文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室